割れないガラスがないことはわかっていましたが、確かそのガラスはちょっとやそっとじゃ割れないはずでした。
家のなかで、妻が気に入ってどうしても購入したいといったのが、ガラス製のテーブルとテーブルウェアです。当時まだ子どもも小さかったため、ガラスの机は危ないと思った私は最後まで反対したのですが、妻の粘り強い交渉に根負けし、ついに購入することにしたのです。
そしてしばらくは、そのテーブルのそばで子どもが遊ぶとき、人一倍気にかけている妻でしたが、だんだんと時間が経つにつれて、その注意も薄れていったのでしょう。そこで事件が起きました。
子どもが玩具のバットを振り回し、本棚に置いてあった置時計にぶつけて落としてしまったのですが、運の悪いことにその直下にあのガラステーブルがあったのです。けっこうな大音響とともに、テーブルは見事に粉々になりました。割れてヒビが入るとかいう段階はなく、いきなり粉々になったのです。子どもの無事を確認したのち、ガラステーブルの破片に目を向けると、粒状のガラス片が散乱していました。そこで初めてそのガラスが強化ガラスだと気が付いたのです。
わたしはかつての仕事のお得意先に小学校がありましたが、そこのガラスも子どもがたくさんいるという理由で強化ガラスでした。それこそバットで叩いても割れないガラスが、先っぽが尖ったものがぶつかった瞬間に粉々に割れてしまうのを見たのも、その小学校だったのです。そのとき割れたガラスの修理を、業者に依頼したのもわたしでした。当時はお得意先で起きたトラブルならなんでも対応していた時代でしたから。
強化ガラスは割れやすいというガラスの性質に対して、製造段階での特殊な加工による強化で補ったものです。通常の衝撃では割れにくいのですが、尖ったものでキズを付けると、そこを起点に粉々になってしまうという特徴があります。破片が粒状なので安全性能は高いと言えるでしょう。